小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

才能と努力について思うこと

海外MBAに進学してみて、同じ日本人の卒業生や在校生を見渡してみると、今まで出会ったことの無いような輝かしい経歴の人に少なくない頻度で出会います。名門中高一貫校や海外のBoarding Schoolから海外名門大学、外資系の投資銀行や戦略コンサル、投資ファンドを経てMBAへといった、テレビで見る様な経歴の人が本当にいたんだ、としばしば思います。

彼、彼女たちの多くは当然ながら極めて優秀で、志が高く、視野が広くバランスの取れた人々で、その上人間味もあって素晴らしい人達なのは間違いないです。ただその一方で、才能・努力といったものに対する考えで、あれ?と感じることが少なくない頻度で起こります。彼、彼女たちは言う訳です。「自分には才能があり、更に努力をしてきた結果が今の自分であり、正当な対価を受け取る権利がある」「意識的な選択と労苦の結果今の立場に辿り着いたのだから、周囲が羨むのは筋違い」と。

「才能と努力」の正体

それを聞くと、ちょっと待ってくれよと自分としては言いたくなります。田舎の中学校で必死に定期テストを勉強して地元で一番の公立高校に入った時、部活をしながら大学に受かるのが至高とされる中で必死に部活にも勉強にも取り組み大学受験を終えた時、自分の世界に海外での教育や外資投資銀行やコンサルというものは一切登場したことはありませんでした。お金だったら奨学金を使えば…みたいな話は解決策にはなりえません。人間、見えないもの、知らないものに対して努力をすることは出来ない訳ですから。親も、親戚も、友人も、教師も、自分の世界を構成する人全員の頭の片隅にも無いものについて、田舎の中高生が認識してそれに向かって努力することはある種の奇跡とさえ言えます。万一テレビでそんな話を聞いていたとしても、自分にとってそういった世界は、芸能界と同じぐらい遠い世界のものとして処理されていたと思います。

別に自分が特別に不幸だったなんてことは全く無くて、寧ろ勉強と部活を応援してくれる、素晴らしい両親、教師、友人に恵まれて育ちました。でも、だからこそ、自分の才覚と努力だけで人生を作ってきたと感じている一握りのエリートには、どのぐらい偶然が影響しているか考えてみて欲しいと思っています。親が用意してくれたSAPIX鉄緑会、名門進学校、幼いうちの海外経験、社会の第一線で活躍する人との繋がり…。それらから着想を得て努力をしたのであれば、それは本当に自分の才能と努力だけで獲得したものと言えるのか?と。

自分自身にしても、両親が用意してくれた環境と偶然が掛け合わさって生まれた状況を前に、努力してきたに過ぎないと感じています。両親の勧めで地元で一番の高校を受験し、高校では教師の勧めで東大を受験。高校の同窓会の中で総合商社の方と出会って興味を持って就活を進め、商社の先輩の背中を追ってMBAまで来ました。一つ一つの過程で努力をしてきたことは間違いありませんが、目の前に与えられた変数の元を辿っていくと、両親が用意された環境と、偶然の掛け算の結果生まれたものに過ぎないと気づきます。どこか一つの前提が崩れていたら、今頃自分の人生が悲惨なものになっていても、何も不思議ではありません。

格差について思うこと

自分が何を言おうと格差は存在していて、比較的フラットな日本社会でも着実に分断が進んでいます。都心における小学受験/中学受験の熱が冷める気配はありませんし、首都圏/関西圏の超名門校から海外の名門大学に進学する流れも、不可逆的なものではないでしょうか。そして20代を迎えたエリートたちは、自分の才能を認めてくれる器が日本社会には存在しない、と嘆くことになる訳です。

ここに至っては、更に分断を加速することになろうと、一部のエリートに向けたキャリアパスを、日本においても充実させていくしか無いのではないのだと思います。いくら日本社会が平等なキャリアパスを志向しようと、アメリカにはより優れたキャリアチャンスが存在しており、今の仕組みで日本に定着してもらうのは困難です。如何に格差が定着しようと、大企業のマネジメントやプロフェッショナル職、起業家として社会に価値を生み出し、高額な税金を払ってもらい、社会に還元してもらうのが、全員がハッピーになる道ではないでしょうか。

そして、これは自分の心情的なものですが、恵まれた人たちはそのことを自覚し、社会に対してPay backする意識を持っているべきだとも思います。アメリカで寄付の文化が盛んなことは格差社会の裏返しなのだとすれば、日本でも格差が広がるにつれて、幸運な人々が社会に富を還元するような仕組みが広がっても良いように感じます。

長文になってしまいましたが、格差についてどう考えるかという点は、周囲のアメリカ人や留学生にもどう感じているかを話してみて、自分の考えを整理していければと思います。