小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

在米日本人インタビュー:テック企業でサイバーセキュリティの仕事をする

アメリカに来る前の経歴について、教えて下さい
  • 大学卒業後、新卒で政府系金融機関に2年間勤務。在籍中に大学院進学を決意し、フルタイムで働きながら大学院進学に必要な準備を行う。大学院には修士課程(2年)+博士課程(3年)で合計5年間在籍。その間、約半年間ワシントンDCでの在外調査、研究を経験。博士号取得後に渡米。
アメリカに来る前の海外経験はどのぐらいか
  • 修士課程1回生の時、学部生向け授業のTAとしてカンボジアベトナムに引率補助として行ったことが最初の海外経験。それ以前にも中学生時代に姉妹都市派遣のチャンスや、学部生時代に弁論大会の副賞としてアメリカ西海岸往復航空券を貰った経験があるが、英語力に自信がなくそれらの機会を最後まで活用しなかった。
アメリカに来る前、英語はどれぐらい出来たのか
  • 英語は中学校入学時からずっと苦手だった。高校進学時、大学進学時、大学院進学時に度々「英語はもっと勉強したほうが良い」と教員から何度も指摘を受け、大学と大学院では課外講座や追加で英書購読等の授業を受講していたが、なかなか成績は上がらなかった。
  • 他方で海外からの使節団や留学生と交流したり、海外のテレビドラマや映画を見るといったことは好きでだった。
今現在はどんな仕事をしているか
  • Managerとして、FORTUNE 100のテクノロジー系企業でサイバーセキュリティに関する仕事をしている。具体的には各国政府や国際認証機関からのセキュリティやプライバシーに関する監査への対応や、社内のコンプライアンス制度の構築、プロダクト開発への助言等の業務に携わっている。
仕事の面白いと思う部分はどんなところか
  • サイバーセキュリティやプライバシーの観点から、主要国の新しい法令や制度、規制等を海外の同僚と連携して学ぶことが出来る点が面白い。
  • また、日本とアメリカで多国間規制の枠組みやテクノロジー関連の法令を中心に学んでいたので、これまで研究や勉強した内容に仕事を通じて触れることができる点が魅力的である。
  • これらに加えて、勤務先の企業はAIやCloudといった最先端のテクノロジーを顧客に提供しており、業界内でも最先端の技術トレンドに触れられるのも魅力である。
日本と比較して、仕事についてどの様に感じているか
  • 個人の裁量権と自分の仕事が与えるインパクトが違う。きちんと仕事をしていれば、部署内外で自分の意見やプランを発信できるし、結果を出せば昇給、昇進という結果に直接跳ね返ってくる。特に人事については、私が日本で社会人をしていた頃は、勤務年数や年齢に基づく昇給や昇進がほとんどだったので窮屈に感じていた。
  • また、経験者の転職や採用についても、アメリカでは会社が変わっても過去の経験が評価されるが、私が日本にいた頃はその会社での勤務年数に重きを置く風潮があったのも大きな違いと思う。
  • アメリカの労働市場流動性は高く、経験則から言えばテクノロジー系の企業では昇進の希望が2年以上認められない場合、他社もしくは他部署への転職(籍)に向けて動き始める社員が多い。また、People Manager達も自分のチームのメンバーが不満を持たないよう昇進や昇給、ボーナスの承認やそのタイミングについて非常に気を遣っている。
  • アメリカの大手企業でPeople Managementをする人は、人心掌握が上手いと感じる。多様なバックグラウンドを持つ人々が一緒に働く中で、どのようにチームとして最大のパフォーマンスを出していくかに対して時間と労力を最も多く使っている。
なぜアメリカに来ようと思ったのか
  • 博士課程修了時にアメリカ人の婚約者(当時)と結婚することとなり、双方の将来的なキャリアを考えた時に自分がアメリカに移住した方が合理的だったので、結婚を通じて永住権(グリーンカード)を取得した。
  • 最初、日本で修士課程を修了した後に会社員に戻ろうと思っていたが、当時は「石の上にも3年」といった感覚で3年以上の職務経験が経験職採用の足切りの目安となっていたため、転職系の求人サイトに加えて、転職エージェントも活用したが自分自身の社会人経験が2年しかなかった点が経験職採用への応募で不利に働いた。
  • 他方で、大学院新卒としての就職活動についても、社会人経験が1日でもあるとそもそも受験できない企業だけでなく、自分が受験した年度の募集要項には職歴に関する項目がなかったにもかかわらず、翌年度の募集要項を確認すると、新卒として応募できるのは「職歴がない方」という文言が付け加えられた企業も複数社あった。
  • 研究者、教育者として大学に残る道も検討したが、博士課程修了直前に予定していた研究プロジェクトの予算が大幅にカットされPD(ポストドクトラルフェロー)として採用してもらう計画がキャンセルされた。複数の非常勤講師や非常勤研究員のポストは用意してもらっていたが、大学院の先輩達が何年も苦労している様子を見ていたので、アメリカに行って新たなキャリアを一から形成することに賭けることにした。
日本に戻って働きたくない理由はあるか
  • 率直に言うと日本にある企業は外資系を含めて給与水準が低いので、戻りたくない。いま自分自身がアメリカでやっているのと同じ内容と質の仕事を東京でやっても同じような収入を得ることは不可能であると考える(為替のトレンドを加味しなくても)。また、実働時間を含めた働き方やライフスタイルについて考慮しても、やはりアメリカの方が自分の肌に合っていると感じる。
  • 労働市場における人材として評価のバロメーターとして、自分自身の給与や待遇を見ているので厳しい言い方だが、自分自身の給料や生活水準を下げてまで日本に戻って働きたいとは思わない。
アメリカにはどんなビザで来たのか
ビザで苦労することはあったか
  • 審査や承認プロセスについては、書類を提出する先のUSCISオフィスが抱えてる業務量によって審査スピードがまるで異なるため、審査の順番待ちの期間は非常にストレスを感じる。
  • ビザや永住権(グリーンカード)の申請は申請者によって背景や事情が全く異なるので、移民弁護士事務所のウェブサイトや個人のブログ等で公開されている情報や経験が役に立たないことが多い。
アメリカで働く中で、どんな苦労を経験したか
  • アメリカでは例えグローバル企業であっても、従業員は日本の大学や大学院の名前や難易度を全く知らないため、Linkedin経由でリクルーターからのコンタクト率や応募書類の通過率を上げる為、アメリカでパートタイムの修士課程に通って修了した。
  • 日本だとフルタイムでの大学院進学やMBA進学が多いが、アメリカだと社会人向けにオンラインやパートタイムのプログラムもあり個々人の自由度が高いため、ぜひ多くの日本人に活用してもらいたい。
今後どの様なキャリアにしたいと思っているのか
  • 選択肢としては、スタートアップ企業に行って事業立ち上げを経験するか、労働市場内でより評価が高い(入社難易度の高い)テクノロジー系会社に行くかのいずれかになるが、チャンス次第だと思う。
  • 領域としては、引き続きサイバーセキュリティやプライバシーの領域で働きたい。これらの領域は引き続き専門人材が世界的に不足しているうえ、業界として比較的若いので自分が第一人者になれる余地がまだまだあると考えている。
今後もアメリカに残るつもりか
  • キャリアの選択肢の広さを考え、永住権(グリーンカード)と自分自身の専門知識と経験を最大限に活用して今後もアメリカで挑戦したいと思っている。
アメリカで働く上で、考え方が変わったことがもしあれば
  • アメリカの修士課程で学んでいた時、年齢や経験年数はあくまでも「数字」に過ぎないということを再認識した。社会人経験が全くないクラスメイトが、社会人として10年、20年以上働いた経験があるクラスメイトよりも地に足がついた議論をする姿に何度も遭遇したことは非常に良い経験となった。
その他何か一言あれば
  • アメリカに来る日本人は母数自体が少なく、仮に進学や駐在を通じてアメリカに来ても、そのまま当地に残って働くという選択をする人はまだまだ少なく感じる。
  • もちろん労働ビザの取得ハードルが高いという事情が大きいが、日本のマスメディアや在米の日本人インフルエンサーアメリカで起きた事件や事故、社会情勢等を紹介するとき、極端なケースばかりを紹介しているのも影響していると思う。特に治安や社会問題の捉え方、物価については、住んでいる地区、市、州によって全く事情が異なるため「アメリカでは…」「ニューヨークでは…」といった感じで一般化して日本の視聴者に伝えることは、そもそも不可能であると思う。
  • 何より、アメリカで働いている日本人のロールモデルが少ないことが最も大きな問題だと思うので、この取材を通して少しでも日本の読者に情報発信ができれば嬉しい。