小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

書評:We were dreamers

Twitterでも紹介した本書、2022年の個人的Best readです。アメリカでの新生活が始まったので他の移民の人生に触れてみようとAmazonでImmigrant autobiography と何気なく検索して出会った本でしたが、著者はSimu Liuは北米のアジア系移民の若手スターとして既に超有名人だったと後から知りました。

エンタメについて人並み以上の知識がある訳でもないですが、「Simu Liuというレンズを通して見る中華系移民の姿」が凄まじく、自分でも十分楽しめました。ご両親は文革の動乱の中幼少期、青年期を過ごし、とんでもない確率の試験を何度も自分の才覚とハードワークと強運だけを頼りに突破し、野心を持って北米に渡ってきたという立志伝中の人。一方Simu Liu本人は勉強、スポーツ共に高いポテンシャルを見せるも、幼少期、社会人の記述を見るに恐らくADHD傾向が強く、中学以降は勉学をほっぽり出して親に敵愾心を抱く毎日。明らかに噛み合わせの悪い両者ですが、批判の方が洞察が鋭くなるのは世の常で、ステレオタイプど真ん中の、エリート中華系移民家庭のリアルを、生の実体験を元に凄まじい筆力で切り取っていく、それが本の70%ぐらいです(最後の30%で、俳優としてゼロスタートからの立志伝、といった感じです)。

全ての家庭はそれぞれ異なり、特に世代が違えば全然背景は異なる、という特大注釈は着きますが、中華移民家庭ってだからこうなんだな、一方という自分の中での解釈がいくつか生まれたので、まとめておこうと思います。

なんでTiger parentsと言われる様な、勉学に厳しい家庭が多いのか

親世代自身、勉学の才覚とハードワークを頼りに社会階層を駆け登っていった経験があり、自分の子供が同様にするのは当然、との考えが華僑家庭では根強い様です。Simu Liuの両親は共に文革で長く中断されていた科挙が再開したタイミングで受験、中断中の受験者が累積し、とんでもない競争率の大学入試(高考)を突破しています。お母さんに至っては一度は家庭の事情で農村での農作業を余儀なくされていましたが、試験当日3週間前に再開のニュースを聞きつけ、農作業後の深夜に猛勉強。トラクターで当日入試会場に向かい、15分の遅刻というビハインドがありながら、かじかむ手を温め高考を突破するという、紛れもない超人です。大学入学後の向学心から来る熱気も凄まじく、同級生皆があまりに勉強しすぎるので21時半以降は勉強禁止令が出るほどだった様です。そこで話は終わらず、お父さんはアカデミア、お母さんはエンジニアの道に進むも、更に社会階層を駆け上ることを夢見てアメリカへの移住を決意。iPhoneどころか恐らくMDやCDすら手元にない中で石に齧り付くように勉強して、一回の受験に1ヶ月の給料を費やしてTOEFLを撃破。カナダに移ってからは、お母さんの最初の仕事は中華料理屋での皿洗い。北米社会の底からエンジニアとしてキャリアを駆け上るという、才覚、勤勉さ、野心と、どれも異次元です。そんな人生を送ってきた両親の子育ては、勉強して理数系で周囲をぶち抜いて、エンジニアか学者が医者になれ、というのは、当然といえば当然なのかもしれません。

なんでアジア系は組織的な行動力に欠け、政治力が弱いとされるのか

自分の生活を良くしたいなら、周囲を巻き込んで社会変革を目指すよりも、自分の目の前の課題をハードワークで解決した方が良い、という考え方が多くの華僑家庭にある様です。お父さんはこう語ります。“Nobody forced us to come here. We made a choice to immigrate. We knew that nothing was going to be handed to us, and we knew we were going to have to work twice as hard as everyone else.””(誰かに強制されてカナダに移民した訳ではなく、自分で選んできている。何もせずに何かが与えられることなんてなく、他人の倍働く必要があると分かっていた)。恐らくこの考え方は多くの場合正しく、他人を変えるより自分を変える方が簡単だし、増してや沢山の人が構成する社会を変えるともなると、そんなことより仕事で成果を上げた方が良い、というのが多くの華僑の考え方なんでしょう。

一方で、自分で選んだ訳でもないのにアメリカで生まれ育ち、幼い頃からマイノリティとして差別を経験してきた子供世代の考え方は大きく異なる様で、Simu Liu自身もAsian CommunityのEmpowermentに対して、俳優業と同じだけの情熱をかけて取り組んでいるとの記述がありました。

 

Asian immigrantの家庭で育つこと、マイノリティとして生きること、情熱を持ち夢を追うこと等が、凄い迫力で描かれる好著でした!Simu Liuファンだけでなく、アメリカにおけるAsianという切り口に関心がある人全てにおすすめしたい一冊です。