小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

日本に戻るか、アメリカに残るか

今日は、アメリカのMBAを卒業した後、日本に帰るかアメリカに残るか、というテーマで書いていきます。このテーマ、結構色々考察されているものはあるのですが、整理されている様で整理されきっていない印象で、結論は「人に依る」になるとは思いつつ、どんな論点があるのか自分の考えを書いていこうと思います。

MBA後の就職を考えるにあたっては、「アメリカの方が給料が高いのだから残れるなら残るべき」という話を聞くかと思えば、「日本のOpportunityがあまりに魅力的なので、大半の日本人は帰国することになる」という意見も目にします(例えば以下記事参照)。

どちらのOpportunityが魅力的かはどんなレンズを通して両者のJob marketを見ているかで全然変わってきますし、急激に円安になったり、どちらかの国の雇用環境が激変(リーマンショックや今のTech企業を中心としたLay offラッシュ)する等、状況は常に流動的です。そんな中、現役のMBA生やMBAを考えている人に向けて、日本就職VSアメリカ就職を検討する際のポイントについて、参考にしてもらえれば、というのが本記事の趣旨です。

Job opportunityについて

MBAという学位が幅広く社会で認知され、Professional firmから伝統企業まで、MBAを多数採用するルートが確立しているアメリカに対して、日本では採用企業の大半が外資系企業となります。その為、Post MBAで以下の様な違いが見られます。

日本の方が良い点

  • 同じ社名であれば日本の方が採用されやすい為、所謂ブランド企業に入社しやすい。MBBやゴールドマン・サックスモルガン・スタンレーGoogleAmazon等、人気企業はアメリカでも競争が激化しやすい一方で、日本では遥かに小さいプール(=日本人MBA就活生)と競う為、相対的にはオファーを得やすくなります。
  • 日本では関連経験が少ないMBA生に対してもバイサイド(PE、HF、VC)の門戸が開いている一方、アメリカではかなりハードルが高い。アメリカでは、そもそもVisaのスポンサーを出す会社が少ない上に、Harvard→GS IBD@IBD→PE→HBSみたいな猛者達も狙いに来る為、日本人どころか留学生全般かなり厳しい戦いになる印象です(尚、日本株カバーのファンドであれば事例はそれなりにある様ですが)。日本でも勿論間口は決して広くはないですが、トップスクールMBAがあれば面接までは呼んでもらえることが多いと思います。

アメリカの方が良い点

  • アメリカの方が給与水準が高い。以下記事はClass of 2021の給与レベルについて纏まっている記事ですが、直近のインフレで更に上がっており、All inで20万ドル程度を手にする人はザラに居ます。

    Poets&Quants - High & Low MBA Salaries And Bonuses At The Top B-Schools

    日本の場合、コンサル・製薬で1500万円程度、Big Techやファンド、IBDならもう少し上がるか、という相場感なので、円安環境の中、円ベースだと差が大きくなっている状況です。また、意外に無視できないのが税金の影響で、所得税の累進性が小さいアメリカでは、日本に比べて税率が低くなる点も、手取りに響いてきます(以下資料はNYを参照していますが、テキサス州の都市やシアトルだとState Income Taxが0%になる為、差は更に大きい)。

    所得税など(個人所得課税)に関する資料 : 財務省

  • アメリカの方が仕事の選択肢が多い。日本でMBAの経歴を活かして就職する場合の選択肢は20−30社程度、コンサル/投資銀行/Big Tech/外資製薬/ファンド(PE・VC・HF・LO)で概ねカバーされますが、アメリカだと大抵の有名企業がMBA生を採用しています。ビザを出すかどうかという問題が留学生には大きな壁にはなるものの、Professional firm以外でも、事業会社のLeadership Development ProgramやStrategy、Corporate Development、Biz Dev、Finance等々、職種や業界の幅はかなり広くなります。
労働環境について
  • Post MBAの平均を取ると、恐らくアメリカの方が労働時間が短いと思われます。日本側のデータは無いのですが、アメリカ(2016年の記事なので少し古いですが)の場合、週54時間が中央値の様です(毎日9-20時ぐらいのイメージ)。Techや事業会社では一日8時間程度の労働時間の企業も多いですが、日本のPost MBA Roleでこれに近い労働時間は珍しいのでは無いでしょうか。

    Poets&Quants - MBA Envy? Not When You Know The Crazy Hours MBAs Work

生活面について
  • 治安は明らかに日本に分があります。大都市に住んでいる場合、ほぼ毎日銃撃事件により人が無くなり、実際に私がEvanstonに住んできた時も、近くのガソリンスタンドで人が撃たれて亡くなったり、高級住宅街で銃を乱射する事件で多くの人が命を落とす、という痛ましい事件がありました。外務省のデータで見ても、アメリカの治安は明確に日本より悪いです。
    ”例えば2019年の殺人事件発生総数は日本が950件であるのに対し米国は16,425件、強盗事件は日本が1,511件であるのに対し米国は267,988件であり、日米の人口差を考慮しても米国における犯罪発生率は日本よりも格段に高いことが分かります”(以下外務省のサイトより引用)

    外務省海外安全情報

  • 物価もアメリカの方が高いです。東海岸や西海岸の大都市に住む場合、一人暮らしの家賃で月額2,000ドル以上、外食も一食20ドル以上は掛かることが多いです。ただ、時折見られる、「NYの大戸屋は5,000円」等、過度に物価差を強調するような切り取り方は実態を反映していないと思います。一般論として、「母国と同じことを海外でしようとすると、母国よりも高くなる」のは世の常なので、アメリカの食生活に合わせて食事を変えたり、外食を控えて自炊を増やす等により、生活コストの違いは縮まります。この点、どの程度「自分がどの程度日本での生活から離れられるか」によって体感物価が変わってくるので、物価の議論は人によって主張に幅が出ている印象です。
    その他、大都市間でも家賃、税金等、大きく生活費は異なる点には留意すべきでしょう。

    Cost of Living Calculator | Salary.com

  • 家賃が高いことの裏返しでもありますが、アメリカの家は大きいです。というか、東京の様な、小さくて綺麗で安い、みたいな選択肢が無いので、MBA卒の殆どは高いけど、広くて綺麗な家に住むケースが多いです。1BR(寝室+リビング)で、日本の2LDKぐらいのサイズの家に一人で住むのが普通、といった感じでしょうか。
その他
  • 当然ながら、英語力に応じてアメリカでの就活、仕事、生活の苦労は大きく異なります。日本人MBA生の場合ネイティブレベルの人から、アメリカ人との会話が困難なレベルまで幅広く分布するので、人によって英語環境のComfortablenessはかなり差が出てきます。
  • 女性やLGBTの方等、バックグラウンド故に日本の企業社会で不合理な扱いを経験している方は、取り組みが進んでいるアメリカの方が快適に過ごせる可能性があります。
  • 現時点での比較だけではなく、時間的な奥行きを持って判断することも大事です。個人レベルで収入やキャリアはどの様に進展していくか、業界やマクロ経済レベルではどうなるか、という視点も判断に関わってきます。
  • キャリアによっては、日本⇔アメリカを行き来できる可能性もあります。一般的に、ビザや言語の問題が無いアメリカ→日本のほうが難易度が低いと思いますが、外資系のTech企業やコンサル、金融機関では日本→アメリカのTransferの可能性もあります(実際にどの程度可能性があり、どれぐらい時間を要するかは、就職前に調査は必要ですが)。
  • 結局カバーし切れなかったのですが、アメリカ文化への愛着度合い、家族の意向や介護等の必要性、教育環境等も個人にとって重要な論点になると思います。

若干ガス欠気味になりましたが、自分が認識している日本就職、アメリカ就職に関する検討事項に一通り触れてみました。繰り返しですが、個人の趣味嗜好、就きたい仕事、家族の状況や金銭面等に応じて答えは変わり得ると思いますが、上記の様なポイントについて自分なりに評価した上で、判断してみては如何でしょうか。