小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

書評:The Joy of Sweat - The strange science of perspiration

誰が読んでるのかも分からない書評シリーズ、とりあえず続けていきます。今回はこちら。

汗についての研究者が、生理学・社会学・生物学等色んな見地から解説した記事。汗こそが人間を人間たらしめた遺伝上の特質、との記述まであり、筆者の汗研究への熱意が(汗だけに)ほとばしる一冊です。サウナへの理解が立体的になるかなーと思い読んだ一冊ですが、一章は丸々サウナ関連に使われており、まさに読んで正解でした。例によって、以下サマリーになってないサマリーです。

汗は人間を人間たらしめる、体温コントロールの手段

汗についてよくある勘違いは、老廃物を排出するために人間は汗を掻く、というもの。老廃物が排出されるのは確かであるものの、汗はたまたま体の中にある水分を出しているだけ(成分的には、血液から血小板、赤血球、免疫細胞を除いたもの)に過ぎず、老廃物を出すことが機能ではない。巷で謳われる「デトックス」は虚妄。

汗の機能は、体の表面で水分を蒸発させることにより熱を気化させ、体温を下げること。人間程、効果的に汗によって体温コントロールしている動物はおらず、発汗機能は人間を人間たらしめる機能といえる。他の動物も体温コントロールの手段を持っているが、デメリットあり。

  • Panting(ベロを出し、呼吸により体温を下げる):犬等が行うが、ベロは体の一部で効果が小さい+Panting自体が熱を発生させる
  • 尿・吐瀉物:アシカは尿を活用、ミツバチは吐瀉物を利用。吐瀉物は量のコントロールが難しい。

チンパンジー等の類人猿の一部は汗により体温調節をするが、体毛により効果が小さい(毛先で水分が気化しても体表温度は下がりづらい)こともあり非効率。手のグリップを強めるための機能が大きく、その意味では人間の手汗は類人猿時代の名残とも言える。

汗によって体温調節が出来ることで、暑い場所でも不都合なく活動出来ている。汗は凄い。

汗はたくさん掻いた時にだけ気づくが、常に汗は分泌され、蒸発している。

塩っ気のある汗を立つのがエクリン腺。「血液 - 赤血球 - 免疫細胞 - 血小板」がこれ。思春期にActiveになる、匂いのある汗を放出するのがアポクリン腺アポクリン腺は不安を感じると活発になる。太古の昔、周囲に危険を知らせるアラートとしての機能を担っていたと考えられる。

サウナ

サウナ界において、赤外線サウナはサウナと認められていないらしい。International Sauna Association(ISA)による、サウナの定義には赤外線サウナは含まれず、水をぶっかけることが出来ないサウナも本当は定義から外れる。ISAのエロマ会長は、Please call them infrared sweat cabinsとして、サウナとは呼ぶな、と述べている。

サウナの健康効果として、サンプル数がきちんとあって裏付けがあるのは心肺機能の向上ぐらい。サウナに入ると、軽いエクササイズと同じぐらい心拍数が高まり、血行が改善する。日常的にサウナに入っていると心臓病の可能性は低下する。また心拍数が高まるのに伴い、エンドルフィンが出て、ランナーズハイと同様の状態になる。

一方、よく言われる免疫機能の改善は、統計的に信頼できるデータによって裏付けられてはいない。サウナ浴によって風邪を引く可能性が下がると言われるが、結論を出すにはさらなる研究が必要とされる。また、上述の通り、デトックスはまやかし。

ドイツ人はWheat beerとコーラを半々にした、Cola-Weizenなる飲み物をサウナ飲料として飲む。

フィンランド人からすると、ドイツで盛り上がり、エンタメ化したアウフグースは邪道中の邪道。ISAのエロマ会長は、"People attending these Augfuss competitions - they are just going to the theatre. They are not enjoying the sauna just for the sauna itself"と手厳しい。

窓に結露するのと似たような原理で、サウナ室内でロウリュが行われると、室内で一番温度が低い人間の体に水滴が凝集する。ドイツの研究によると、アウフグースの時に体から滴る水分の30−55%はサウナストーブで気化した蒸気。残りが汗。

エロマ会長によると、フィンランドのサウナ外交はガチ。冷戦下の1970年代、ソ連防衛大臣ががフィンランドへの影響力を高めようと合同軍事演習を提案。西側諸国との関係悪化を避けたいフィンランドは反対するも、ソ連側が外交圧力を強める、という事態に。その時、フィンランドのKekkonen大統領は別荘にソ連防衛大臣を招きサウナで議論を重ね、合同軍事演習の実施を回避した、とのことらしい。

所感

汗が極めて人間的な機能で、高度に発達した体温調節の手段という視点を初めて得ました。そんな極めて人間的な発汗という現象を使って楽しむサウナは、極めて人間的な娯楽なんでしょう。

また、アウフグースやサウナを利用した風俗営業等、ドイツがサウナ界の問題児、それを苦々しく正すフィンランド(とISA)という構図があることを初めて知りました。ISAからすると、日本にしても本筋から外れまくったサウナ(熱波師、サウナ室内にテレビ、赤外線サウナ等々)が溢れている訳で、彼らから見て日本はどの様に映るのか大変興味深いです。