小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

アメリカでクビになるということと、その処方箋

その日は突然にやって来た。Board memberがプレゼンする大きめの社内会議が催されていたある日のこと。チームの若者達は、偉い人が使うであろう言い回しでビンゴゲームを作って遊んだりしていた。

その後のチーム会議。数分経っても最若手のメンバーが入ってこないが、彼はルーズなところがあり遅刻は珍しくないし、他の予定とバッティングということも考えられる。私の上司でもあるマネージャーが、What's your response to his comments on ... in the presentation?と、午前の会議について感想を聞き、会議は和やかなトーンで始まった。

2つ目のトピックというところで、上司は言い淀むこともなく"Today is his last day" と突然言い始める。え?あいつ今日が最終日?なんで? 混乱する私を置いて私以外は特段動揺した様子も特に無く、話題は彼がこれまで対応していた仕事を今後どう分担していくかという点に移っていった。

直後でマネージャーと1 on 1があったので本件について聞いてみたところ、「あまり多くは言えないが、彼は前々からPIP(Performance Improvement Plan;低パフォーマーに課される仕事改善計画)の最中にあった」「退職は彼の選択ではない」との説明だけがあった。1 on 1を終えてPCにログインすると、解雇されたメンバーのSlackは既にアカウントが停止されており、直後に社内の偉い人から、「彼は今日が最終日だった。今までの仕事に感謝!」とメールが回った。

アメリカでFireされるということ

上記は実際に最近私のチームで発生したことですが、日本でもしばしば語られる通り、アメリカは日本よりクビが多いです。ここで大事なのは、「クビ」という言葉のどのサブカテゴリーにあたるかという点。それがFireなのか、Layoffなのかで話は全く変わってきますが、日本にいると違いがイメージし辛いのでは無いでしょうか。

https://www.indeed.com/career-advice/career-development/laid-off-vs-fired

両者の違いの根本は、「誰のせいか」という点で、Layoffは会社のせいです。会社の戦略が変更されその事業から撤退する。そのJobが消えてなくなったり大幅に縮小になる。そういった時に、余剰となる人員に会社を去ってもらうのがLayoff。一方、Fireは社員のせい。分かりやすいのは不正を働いたり問題を起こしたりしたケースですが、そうでなく、期待したパフォーマンスが上がっていないという事由でもFireになり得ます。Layoffなら通常退職させてごめんなさいということで会社から相応のお金をもらえますが、Fireの場合は通常手当も出ません。

このFire、実際に初めて目の当たりにするとショッキングなものでした。確かにFireされた彼はレスが悪かったり、質問に対する回答がイマイチだったりという点は否めないものの、指示されたExcelパワポの成果物は多少ミスりながらも出してくる。「筋の悪めの若手」という感じ。自分自身の新人時代も酷いものでしたし、日本企業で珍しくないレベルでいる若者だと思うので、「これぐらいでクビになるんだ」という衝撃がありました。

Fireされるメカニズム

Fireする人員がどう決まるかについて、自分の理解を書いていきます。N=1しか目にしていませんが、MBAの同級生と話した感じからして、恐らく多くの会社に当てはまる話だと思います。キーワードは、「相対」と「期待」です。

まず、一番抑えないといけないのは同じLayerで比較した相対評価である点。下位何%がクビになるかは会社による部分でしょうが、ここではざっくり1割と考えましょう。周りと比較して下位10%にいると判断された場合、まずはイエローカード(上述のPIP)が出され、しばらくして改善が見られないと判断されたら、Fireです。「相対評価」という言葉は主観的、ともすれば情が入る余地がある様な語感がありますが、その実は真逆。絶対評価であれば「全員良くできていた」として全員クビを免れる、情が入り込む隙間がありますが、相対評価で下位x%が切られるのは、常に濾過器が回っている状態。濾過が進み水が綺麗になったところで、自分が一番水を澱ませている粒子になってしまうと、否応が無く排除されます。

第二が、評価は評価者の「期待」に対するパフォーマンスで決まる点。そして、如何にJob Descriptionが明確に定められているアメリカといっても「期待」を捉まえることは簡単ではなく、常に流動的で情緒的な評価者の期待を捉え、押すべきボタンを押していくことが大事です。

Fireされないための処方箋

Fireされない為には、相対と期待、2つのポイントにアプローチすることが肝要だと、私は考えています。まずは、自分の立ち位置を常に把握する為に、トピックがなくとも同僚とのチャットを定期的に入れる。「今何してる?」「どんなアウトプット出してる?」と話す中で、自分の仕事のチームの中における重要性、そしてチームにおける自分の立ち位置の輪郭がつかめる様になります。

また、評価者の期待を理解するという観点では、仕事に取り掛かる事前の擦り合わせ、事後のフィードバック、どちらも重要ですが、特に後者が大事。「何が良かったのか」「何が悪かったのか」「悪かった点はどう直していけば良いと思うか」の3点。特に後ろの2点。期待に対する自分のアウトプットへの評価と、評価を高めていくためのアクションプランを明確にする必要があります。

雑感、独り言

本筋は以上ですが、以下はFireに関する雑感、独り言です。

「使えないおじさんがいる職場」と「いつクビになるか分からない職場」は多分二者択一

年功序列の日本の会社で働いていて唸る程よく耳にするのが、「何の仕事もしていないおじさんが自分より高い給料を得ていて萎える」というもの。Fireが頻発する職場でこの様な事象は当然発生しづらいですが、その刃がいつ自分に向かってくるか分からない、ということでもあります。

怖いIBDで若者を詰める時の決めセリフ、「お前ブルームバーグ端末より価値出てんの?」という言葉は示唆的

怖いIBDでは筋悪の若者を詰める時にブルームバーグ端末を指差しながら罵倒すると聞いたことがありますが、これはとてもアメリカっぽいな、と思います。「従業員は家族」と称する日本企業もありますが、資本主義社会に於いて、従業員は「仕入先」の方が近い様に思います。ブルームバーグ端末から得られる情報がロイター端末やCapital IQより低質ならすぐ他の商品にすげ替えられる様に、他の従業員との相対比較・期待値との対比の中で劣る社員はクビ。従業員の扱いは、本質的にはブルームバーグ端末と大差ない気がします。

でも、評価はフェアで透明性は高い

皮肉っぽくなり過ぎたかもしれませんが、評価はシステマティックに、高い透明度でなされます。人が人を評価するので主観が入り込む隙間は常にありますが、最大限フェアなものとなる仕組み化がなされている様に思います。これは現代のアメリカという国がGreatである最たる所以だと個人的には思っており、多少言葉が怪しかろうが肌の色が違おうが、フェアな土俵に載せてもらいやすい社会です。Land of opportunityの言葉通り、自分が好きで得意な仕事をして、仕入元たる会社から存分に評価されて身を立てていくには、最適な社会です。

評価はフェアで、Diversity & Inclusionへの意識も高く、パワハラやセクハラも抑えられており、時にはベーグルを摘みつつパーティー。残業も抑えられ良い環境。というのは確かなのですが、会社は大家族ではなく、仕入元という本質は常に心に刻んでおく必要があるように思います。環境を良くしているのは水槽の中にいる人のパフォーマンスを最大化するためであって、決して日本の会社より人間的で優しいから、という訳ではないのです。