小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

クレジットカードのビジネスモデルはどの様に出来上がったのか

クレカのビジネスモデルシリーズ、もう少し続きます。前回記事でクレカビジネスのステークホルダーと各々どんな感じで儲けているかを書いたのですが、正直これだけでは頭に入りづらいかと思います。

金融や決済の話は仕事で携わってみて初めて理解出来る、というものが多いので仕方ないと思いつつ、Factだけ並べられてもしんどいものがあると想像します。商社時代に尊敬していた上司が「事実のみの文章は使い物にならず、書き手の魂と息遣いが伝わる文章を書け」と常々言ってたんですが、本記事では無味乾燥な決済データが飛び交うPaymentの世界の裏側に、どんなストーリーがあったかにフォーカスしていければと思います。

そもそも、ペイメントとは何か

Visaの創業者、Dee Hockはクレジットカードという名称を"a misnomer based on banking jargon(銀行における専門用語に端を発する誤称)"と表現し、カードという形態はその時代、その状況に於いて使われているに過ぎないとしました。"We were really in the business of the exchange of monetary value"、クレジットカード業界と呼ばれる業種は、金銭価値の交換ビジネスなのであると彼は述べます。

Dee Hockが喝破した通り、クレジットカードというのはカード以前にDominantであった貨幣という価値交換手段を置き換えるとの発想から生まれたようです。セゾンカードのHPに、こんな記載がありました。

世界で初めてクレジットカードが誕生したのは、第二次世界大戦後、1950年代のアメリカでのことです。実業家のマクナマラと友人の弁護士シュナイダーによって世界初のクレジットカード専業会社であるダイナースクラブが設立されました。マクナマラはレストランでシュナイダーと食事をした際に財布を忘れたことに気付き、恥をかくことになります。この出来事から、ツケで支払いできるシステムを作ろうと考えたのがダイナースクラブ発足のきっかけと言われています。

クレジットカードの歴史を紹介!日本ではいつから普及したの?【クレジットカードのことならCredictionary】

その後、1950年代のアメリカではガソリンスタンドや航空会社が貨幣ではなく自社発行カードで決済可能と謳いカードが乱立したようですが、All purposeカードとして様々な決済に使え、更に個人がCreditを利用できる(お金を借りられる)手段としてBoAが提供した、BankAmericardが現在のクレカの起源となることは、以前のブログに書いた通りです。

当初のクレカのビジネスモデル

1950年代当時にスタバがあったかは別として、当時のクレカ決済に関与するのは、客・事業者・銀行の3社のみ。VisaやMastercardはありませんし、関与する銀行はBoA1社です。BankAmericardで支払いたいとスタバにカードを提示、スタバはBoAに電話をかけて承認してOKか確認、BoA側で担当者が与信枠はどうか、不正利用はないかというチェックし、良さそうであればApprove!支払い完了です。後日、支払いのエビデンスをスタバからもらいBoA→スタバに代金を払いつつ(+代金の6%の手数料をチャージした様です)、BoAは顧客Aから代金分を回収する、という流れです。この時点で、カード保有者の支払い能力をチェックした上でカード発行、取引の承認、代金の事業者への支払いと顧客Aからの回収、事業者や顧客Aへの書類発行等の事務手続き等、クレカビジネスの基本機能は既に存在しています。

BankAmericardのカリフォルニア外への展開

立ち上げ当初は大きすぎる産みの苦しみをBoAは経験した様ですが、黒字化に成功、1960年代前半はBoAのドル箱として成長しました。1960年代後半、カリフォルニアの銀行グループが組織したMastercharge(後のMastercard)等新規参入が続く中、BoAは州外へのカードビジネスの展開をスタート。ところが、当時の銀行規制により州外の顧客に直接お金を貸すビジネスは出来ません。BoAは州外の銀行とライセンス契約を結び、ロイヤリティーを受け取りつつ、全米各地の銀行にBankAmericardをばら撒いてもらう、という戦略を取りました。BoAがライセンス契約を結ぶのはその州の大手銀行、そして大手銀行はより小さな銀行と連携し、カードを消費者に届け、事業者がカードを受け付けられる様に営業をかけていきました。

このライセンス契約が後にBoAを悩ませるカオスの始まりです。BoA一行で事業者の相手も顧客の相手も完結していたところが、BoA自体はカードのライセンス契約をするのみ。事業者にカード受付の営業をかけ口座を提供する銀行①(Acquiring Bank)、BoAとライセンス契約してカード発行を行う銀行②(Issuing Bank)と、突如関係者が二人も増えてしまいました。

こうなると、クレカ利用の承認が途端にややこしくなります。POS端末なんて勿論存在しない1960年代、顧客Aがスタバでコーヒーを買おうとクレカを提示すると、スタバはまず自分にサービスをしてくれているコロラド小銀行に電話し、「これ承認しても良いかな?」と聞きます。ところが、コロラド小銀行は事業者にサービス提供しているものの、カード発行したのは自分ではないので承認可否は分かりません。クレカ番号を元に、発行主がコロラド大銀行であることを特定。スタバを待たせつつ、コロラド大銀行に電話。コロ大銀の担当者は急いで顧客の情報に関する書類を引っ張り出し、その客が存在し与信枠等のチェックを済ませ、OKとコロ小銀に伝え、それがスタバまで伝わり漸く取引承認となります。ふう。

書いているだけで面倒くさそうですが、上の事例はスムーズにいったケース。夜に客がコーヒーを買って、コロ大銀に電話しても電話が繋がらない時はどうすれば?顧客Aが使っていたカードが道で拾った他人の物であったと分かった時の責任の所在は?

こういった疑問に、ライセンス元であるBoAに問い合わせても、トラブルが多すぎて対応が追いつかず、埒が明きません。BankAmericard関係銀行の不満が頂点に高まったところで、全米中の銀行が集結。喧々諤々の議論の末、National BankAmericard Inc(NBI)、現在のVisaの前身が1970年に誕生します。

NBIは大手銀行が所有するNon Profitの組織として運営し、Acquiring BankとIssuing Bankの間でのInterchangeを初めとするルール決め、NBIとしてのブランディング、電子化等を推し進めます。Acquiring BankとIssuing Bankの間を取り持つインフラとしてのNetworkが誕生、そしてPOS端末やProcessorといった電子化が進展した結果が、今のクレジットカードビジネスの姿です。

それにしても、BoAの一事業として旗揚げ、それがスピンオフした組織が今や決済ネットワークのど真ん中に座り、世界の金融機関で最も価値のある企業になっているとは、面白い話ですね。

Largest financial service companies by market cap

またもや長くなりましたが、今日はこの辺で。今日は以下本を参考にして書きました。どちらもAndreessen Horowitzのパートナーの方が以下Podcastで勧めていた本ですが、素晴らしい本でした。

Business Breakdowns: Visa: The Original Protocol Business on Apple Podcasts