小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

クレカで支払う時、裏では何が起こっているのか

引き続きペイメント業界自由研究シリーズで、今回はかなり基本というか根本。クレジットカードで支払いを行う時に、裏側では何が起こっているのかについて書いていきます。私も勉強中ですが、この辺が頭に入ってると、巷のFintech企業がやってることの内結構な割合が頭に入ってきやすくなる気がします。過去の関連記事は以下。

スタバで100ドルの買い物をする場合

いきなり例が(金額的に)非現実的になりますが、顧客Aなる人物が、スタバで100ドルの買い物をするケースを考えましょう。スタバじゃなくてWalmartでもセブンイレブンでもオオゼキでも、なんでも良いです。支払いに使うのはVISAのマークがついた、Chase銀行のクレジットカードです。

流れを説明していきます。適宜、さっき作った上図を参照。

  1. 顧客Aがコーヒー、タンブラー等、計100ドルをChaseのクレカで支払います。支払い時は、POS端末をクレカでタッチです。ここから、「本当に顧客Aの支払いを受け付けてOKか」という確認がスタートします。
  2. スタバがカード決済に使ってる銀行がBoA*(バンカメ)だったとしましょう。クレカでタッチされたPOS端末はクレカの情報を、BoAに送信。BoA側でデータをキャッチするのは通常人間ではなく、Acquirer Processorと呼ばれる機械です。
  3. BoAのAcquirer Processorはカード番号から、このカードがVISAのものであると特定。VISA**にデータを転送します。BoAとしては、自分で発行したクレカでもないChaseのクレカについて、承認してOKかなんて分かりません。そこで、VISAに、正しい発行者に情報を繋いでもらう必要が出てくるのです。
  4. データを受け取ったVISAは、これまたカード番号から、Chaseが発行したクレカであると特定。Chase***にデータを転送します。BoA同様データをキャッチするのは通常機械で、Issuer Processorと呼ばれます。
  5. Chaseはカードを発行した張本人。登録情報や過去の決済のデータを元に、その取引が不正でないか、信用枠が残っているか等を確認。OKであれば、OKとの点、VISA→Acquirer Processor→スタバのPOS端末とデータが送り返され、「Approve!」。そのクレカでの100ドルの買い物が承認されます。

1−5まで、時間にして2−3秒。この僅かな間に、色んな金融機関の間でデータが飛び交い、取引承認が行われてるんですね。

*事業者サイドに「クレカ支払いを使えるようにするサービスを提供する銀行」をAcquirer Bankと呼びます。

**Acquirering BankとIssuer Bankの間を繋ぐVISAやMastercardといった会社を、Networkと呼びます。

***カード所有者に対して、「クレカの発行等のサービスを提供する銀行」をIssuing Bankと呼びます。

取引の後の主なお金の動き

上記のスタバにおけるクレカの買い物で、経済的に誰から誰に価値が動いているかを示したのが以下。実際のお金の流れとは必ずしも一致しないので注意。Interchangeや手数料は適当(カードの種類や取引の場所等色んな要素に依存)ですが、ざっくり数字の大きさのイメージを掴むには十分だと思います。

  • 事業者は100ドル売ったものの、クレカ取引の場合、100ドル丸々が事業者の懐には入りません。カードによって客の金払いが良くなっている/客が増えているという理屈で、その対価を事業者は負担します。これが計3.2ドル。
  • この3.2ドルを得るのはAcquiring Bankですが、Acquiring Bankは今度はその内3ドルをInterchangeとして、Issuing Bankに払う必要があります。このInterchangeというもの、クレカという取引を実現する上で一番リスクを取り仕事も多いIssuing Bankが得ることになります。Issuing BankはこのInterchangeを元手に、顧客にCash back等の特典をつけて、クレカをもっと使ってもらおうとしたりします。
  • Acquiring Bank、Issuing Bankはいずれも、Networkを使ってデータをやり取りさせてもらっているということで、Networkに対してお金を0.15ドル払います。
クレカ業界のステークホルダーとその役割

Network(VisaとかMastercardとかAmexとか)

  • 上図で分かる通り、クレカ取引(デビットも同様)の中心に鎮座するのがNetwork。Acquiring Bank、Issuing Bankの間のデータのやり取りを仲介するインフラです。Acquirer、Issuerの両方から手数料を徴収出来ること、また世界中のクレカ/デビット決済をほんの少数の会社が握っているので、Volumeが非常に多く、安定的に儲かります。
  • Network自体が受け取る取引あたりのFee自体は多くない。Visa/MastercardはNetworkとしての機能に注力してますが、AmexやDiscoveryは自社ブランドのクレカ発行(Issuing Bank)、Acquiring Bankとしての機能もカバーするので、位置取引あたりの収益性は大きくなります。
  • この業界の興味深いところとして、Acquiring BankがIssuing Bankに支払うInterchangeを、Networkが決めているところです。自分が受け取る訳でもないのに、ルールを決めるのはNetwork。無数にあるAcquiring Bank、Issuing Bankがそれぞれ個別交渉してルールを定めるのは現実的ではないから、Networkがルール設定している、という理屈です。

Issuing Bank(ChaseとかBoAとかCitibankとか)

  • クレカの発行をするのがIssuing Bank。アメリカだとChase、日本だとSMBCとか三菱UFJニコスとかのイメージですかね。カードを申し込んできた人の信用力を審査してカード発行したり、不正利用があったら対応したり、顧客にオンラインのポータル提供したり明細発行したりと、カード保有者側に対して各種サービスを提供します。
  • 儲けの種は、1)カード残高に対する金利 2)Interchange 3)年会費(最近年会費無料が増えている模様)の主に3つ。2)のInterchangeはNetworkに握られているのが痛いですね。1、2、3のバランスで、クレカ会社各社の戦略が見えてくるところですが、一般的には金利収入がメイン。"Payments Systems in the U.S."によると、平均的には、売上の57%が金利、17%がInterchange、その他Feeが13%という構成になるようです。結局、クレカ残高をきちんと返済されてしまって金利払いがなくなると、クレカ会社は儲からないんですね。

Acquiring Bank(ChaseとかBoAとかCitibankとか)

  • 事業者にPOS端末を提供したり、Networkへのデータ伝送といった機能を提供するのが、Acquiring Bank。Issuing Bankと同じ顔ぶれなんですが、Visa/MastercardといったNetworkに接続できるのが銀行に限られる為仕方ないのです。
  • Issuing Bankと違ってカード保有者にお金を貸して金利収益をあげることは出来ないですし、Interchangeも事業者に転嫁するものの支払いサイドということで、利鞘は薄くなりがちです。Visa/Mastercardも、どちらかというとIssuing Bankの方を向いて仕事することが多いみたいです。
  • 実際に事業者にどのようにPOS端末を届けクレカ決済できるまで持っていくか、という点は、ISOと呼ばれる事業者向けの売り子さんや、Payment Facilitatorと呼ばれるイケてるFintech企業(Squareとか)の出番だったりするのですが、複雑なので本記事では飛ばします。
最後に

長くなりましたが、以上が大まかな仕組みです。今後は、なんで上記のような(ややこしい)仕組みになっているのか過去経緯を紐解いたり、個別企業の分析をしていけたらと思ってます。最後に、本記事の参考にした書籍のリンクを貼っておきます。日本語・英語で何冊か読みましたが、以下3つが抜群によくまとまってました。