小市民ブログ

KelloggってMBAを出てアメリカで移民サバイバル生活をしています。サウナが好きです

日本の給与はなぜ低いのか

カナダ旅行中に色々調べていたら、イギリスのMBAを経てカナダに就職された方のブログを発見し、刺激的な記事が目に留まりました。

主張自体はどこかで目にしたことがあるものが多いと思いますが、自分と同じ海外現地就職組の視点で歯に衣きせずまとまっていたことから、面白いなと思ってスラスラ読んでいました。

なぜ日本の給料は低いのか。ヤフコメ曰く、悪い政治家や官僚や大企業が搾取しているから。曰く、日本がオワコンだから。曰く、税金が高すぎるから。色々意見はありますが、MBAやプロファーム界隈の所謂日本の優秀層の方々からよく聞くのは、上記のブログの様な主張が多いです。結論、日本企業の生産性が低いことが理由であり、その背景として、

  • 強い解雇規制により、無能が会社に居座り、限られたパイを奪っている
  • 年功序列を背景として、能力に応じた賃金が支払われず、優秀な若手のモチベーションを悪化させている
  • 労働者の流動性が低く、能力に応じた給与を得られる転職が困難
  • 女性差別外国人差別
  • 生産性を下げる非効率な働き方(不要なハンコや報告、過度な飲み会等)

等が指摘されることが多いと思います。

が、実際のところどうなのでしょう。色々説明はあると思いますが、改めて以下2冊本を読み、自分の考えを整理してみました。

足元のデータ

まずは現状認識から。OECDのデータに基づくと、2020年時点で日本は22位となっています。思った以上に低くないでしょうか?韓国やスロベニアイスラエルよりも下位につけているのが日本の現状です。

日本人の平均収入、世界と比べると多い少ない?世界の平均年収ランキング!|タマルWeb|イオン銀行

何故、賃金は上がらないのか

「搾取されている」といった陰謀論を横に置くと、日本企業の収益力からの切り口と、それ以外の切り口があります。収益力以外の切り口として、上記本では以下が指摘されていました。

  • 高齢化による社会保険料増大、実質負担増加
  • 人口構造的に、高賃金、高齢の労働者が退出
  • 非正規労働者の比率増加
  • 賃金の下方硬直性により不況期に下げられないから、好況期にも上げられない
  • 医療、介護は受給が賃金に速やかに反映されない

上記の内、非正規労働者の増加、社会保険料の負担が増えて給料上げられない、医療や介護の給料上がらない等の根本は、企業収益が伸び悩んでいることにあると思います。野口氏の本では、以下記載がありました。非正規労働者の問題に限らず、原因が企業の余力にあることは多いのでは無いかと思います。

非正規労働者が多いから、賃金が低くなる」という意見がある。表面的には確かにそのとおりなのだが、これは、原因と結果を取り違えた議論だ。因果関係としては、「企業の生産性が低いために非正規労働者に頼らざるを得ない」のだ。

結論、会社が儲かれば給料は上がるのです。1人あたり粗利益を指標として野口氏は使っていましたが、以下ダイヤモンドの1人当たり営業利益で上位の企業も、概ね給料が良い企業群と対応しています(商社が入っていないのは、事業投資の持分法損益が大きいためと想像します)。

1人当たり営業利益ランキング

年収下落・上昇率ランキング、給料の明暗は「社員1人あたりの営業利益」で決まる | 週刊ダイヤモンド特集セレクション | ダイヤモンド・オンライン

儲かっていれば給料は上がるという点、私個人の経験とも一致します。総合商社の給料は入社以来上がり続けていました。周知の事実として商社の給料はボーナス部分が大きく、ボーナスは利益連動部分が大きく、そして過去20年に渡り商社の純利益は成長を続けています。原資が増えれば、労働者に還元される絶対額も増えます。キーエンスファナックも日本M&Aセンターも同じでしょう。

というところで、結局「どうやったら日本企業の一人当たりの利益はどうやったら増えるか」というところ、即ち生産性の議論に戻ってきます。「粗利÷従業員数」の等式になるので、粗利を増やすか(売上を伸ばすか粗利率を上げるか)、従業員数を減らすの2択です。

この点はイノベーションなり、企業文化なり色々に議論が展開出来るとは思いますが、個人の感覚として、以下は改善の余地がある部分だと思います。

人を減らす

  • 解雇規制の緩和。付加価値を生み出さない人材には職場を去ってもらう
  • デジタル化を推進し、マニュアル作業の効率化

利益を伸ばす

  • 年功序列的な賃金体系を改め、社員のモチベーションを高める
  • 転職市場の流動性、透明性を高め、稼ぎの良い分野に人的資源が振り向けられるメカニズムを機能させる
  • 英語力を強化。海外での事業を推進できる人材の育成

両方

  • 非効率な働き方の排除。残業代を減らし、モチベーションを高める。同じ人数で回せる仕事を増やす
どんな政策が必要だと思うか

上記が実現されるには、政策、制度面での大転換が必要となります。特に、解雇規制の緩和については社会的に広く合意形成がなされる必要があります。今は、司法も解雇規制緩和を制限する方向の様に見えます。

他にも、NYのように賃金を透明化して競争力の源泉となる分野に人材が流れるようにする、利益が低迷する日本企業に対してガバナンスを浸透させていくといった変化も望みたいところです。しかし、私が悲観的過ぎるのかもしれませんが、こういった企業文化が早晩変わるとは到底思えません。ユニクロキーエンスソフトバンクの様な、カリスマ経営者が1から優れた企業文化を作り上げる事例は目にしますが、伝統的な大企業が企業文化を大きく作り変えた事例を、私は知りません。

だとすると、合理的な意思決定がなされる企業文化をもつ、若い企業が経済に占めるプレゼンスを増やしていくことが、ガバナンスを通じて古い企業を変革するよりも大事になると思います。古い、競争力のない企業への補助金はやめて、新陳代謝が活発な経済が望ましいと、私は考えます。

個人として、どんなアクションが出来ると良いか

色々書いてきましたが、特に真新しいことは言っていないと思います。多くの人が気づいているものの、選挙で勝てる政策では無い、ということなのでしょう。

これらの政策変更が将来なされるのか、なされる場合にどれぐらいのタイムスパンになるのか、私には全く読めません。20年、30年かかるかも知れないし、変化は起きず日本の低迷は続くのかもしれません。

個人の人生を考えるのであれば、こういった不確実な外的環境に身を委ねるより、海外の企業から評価される専門性を軸にしたキャリア形成や、海外大学院等経由で現地に就職、また自ら事業を興す、といった選択肢の方が魅力的だと思います。日本社会と日本の伝統企業の起こるか分からない変革を待つよりも、日本の外で生み出されるキャッシュフローの分け前に預かれるようになったり、自分自身で事業を回してキャッシュフローを得られる様になった方が、実りある人生になりすいのではないでしょうか。

日本の中で、給料の高い伝統企業に勤める、という選択肢も勿論あります。が、これは私の価値観とは異なります。私はこういった企業に働いて、日本社会の中では良い給料を得ながらも、あまり幸せそうではない人を沢山見ました。

例えば、とある人物は、若手の忠誠心を試す為に自宅がある八王子で飲み会を開催していました。彼以外は、基本的に都心に住んでおり、電車で1時間以上の移動です。そして彼は、電車がなくなる、深夜になるまで敢えて解放してくれない人でした。しかし、若手は参加しないと職場で不利益を被るため、嫌々ながら飲み会に現れ、彼に対してお酌をする訳です(「八王子の刑」と本人は称していました。)。それ以外にも、子供が生まれたばかりだが、急に中東への赴任を命じられて断れなかったり、マイクロマネジメントと怒号を通じて部下の精神を破壊し、複数人の退職者を出した人物との仕事を余儀なくされた人もいました。

私は、こういった不幸に対して、「じゃあ辞めます」って言えないのであれば、文句を言っても意味がない、と商社に勤めている時に思っていました。自分の受け取っている給料が、市場で評価されるよりも遥かに高いとすると、理不尽に遭遇しても給料減を飲んで、尻尾を巻いて逃げることしか出来ません。

そうすると、本当に不幸なのはパワハラや理不尽に遭遇することではなく、こういった不幸に対して毅然と対処する術を持っていないことではないか、と考える様になりました。不幸は偶然ですが、対処する術がないのは選択の結果と言えます。私がアメリカのMBAを志したのはネガティブなことだけが理由ではありませんが、こんな考え方も根底にはありました。

個人の人生なので正解はありませんが、何かの参考にしてもらえれば幸いです。なんか勢い余って、説教臭くなってしまいましたね。本日はこの辺で。